知能ロボットの受託開発事業を行う株式会社キビテク代表取締役林まりか氏は、途上国の格差をなくすべくSDGs新規事業立ち上げに取り組んでいます。
ソーシャルマッチは、キビテク様がSDGs事業を展開するにあたり現地情報収集先や提携パートナーを必要とされていたことを受け、カンボジア障がい者支援NGOやカンボジアの職業訓練センター運営機関など、現地キーパーソンを紹介いたしました。

「2年前まで、社会問題に全く関心がなかった」と話す同社代表の林まりか氏が、なぜソーシャルビジネスに取り組もうと思ったのか、どのようなソーシャルビジネスを立ち上げるのか、お話を伺いました。
(本記事は、オンラインイベントで、キビテク林氏とソーシャルマッチ代表原畑の対談をまとめたものです。)


(写真右) 株式会社キビテク 代表取締役 林まりか
東京大学学際情報学府 博士課程卒。博士(学際情報学)
三菱電機を経て株式会社キビテクを2011年に創業。東京で知能ロボットの受託開発事業を行う。IPA(情報処理推進機構)未踏スーパークリエータ。現在はソーシャルビジネスとしてロボットの遠隔オペレーション事業の立ち上げに取り組む。

(写真左)ソーシャルマッチ株式会社(旧株式会社value) 代表取締役 原畑実央
松山大学在学中に社会問題をディスカッションする学生団体を立ち上げる。社会問題を解決しようと活動する人の講演会の主催や、活動の現場に訪れるツアーを開催する。大学卒業後、アリババジャパンに入社し、日本企業の海外販路開拓支援に携わる。その後、 カンボジア移住し、カンボジアで最大手日系人材紹介会社CDLで3年間マネジャーを務める。令和元年に現地の社会問題解決に取り組む東南アジア企業/NGOと日本企業のマッチングを支援する「ソーシャルマッチ for SDGs」を展開するソーシャルマッチ株式会社を設立。

自分の心が動くことに対して日々取り組んでいきたいと思った

原畑:林社長、本日はどうぞよろしくお願いします。はじめに、なぜ事業として社会問題の解決に取り組もうと思われたのでしょうか?

林:恥ずかしながら、社会問題に全く興味がないまま30年間過ごしてきたのですが、2年前に息子が生まれてから意識が変わりました。一番のきっかけは、日々子育てに向き合う中で、飢えに苦しむ親子のニュースを偶然目にしたことです。「息子は離乳食をあげても残してしまうのに、世界にはごはんを食べたくても食べられない子供がいる」その憤りとショックで思わず涙が出ました。その出来事から、「子供のことに対して最も心が動く」ということに気づき、自分の心が動くことに対して日々取り組んでいきたいと思うようになりました。

原畑:子育て中に感じたことがきっかけとなって、社会問題に広く関心を持たれるようになったのですね。現在、社会問題を解決するために、具体的にどのような事業展開を考えているのでしょうか?

林:ロボットやAI技術を用いた、高度自律的遠隔制御サービス「HATS」の新規事業に取り組んでいます。近年、AI技術が搭載されたロボットが増えてきていますが、ロボットだけで臨機応変に判断し、業務を遂行するのが難しい場面も現場では沢山あります。そこで、遠隔地にいるオペレーターが現場のロボットをアシストするための遠隔制御システムが「HATS」です。

AIにとって状況を判断することが難しくても、人間にとっては簡単な問題であることが多いため、高度な知識や技術がない方でもオペレーターになれます。また、現場にいなくてもネットさえあればオペレーターとしての業務を遂行することが可能なため、この新規事業が立ち上がれば、途上国の多くの方に雇用の機会を提供することができるのではないかと考えています。

原畑:なるほど、遠隔制御システムであれば場所を選ばずに働くことができるので、可能性が広がりますね。

林:そうですね。将来的にAI技術の台頭によって労働者が仕事を奪われ、格差が固定化されることも考えられます。AI技術やロボット開発に携わる身として、格差の固定化を回避することが責務だと思っています。

原畑:途上国の中でも、なぜカンボジアを選ばれたのでしょうか?

林:まず、HATSのビジネスモデルから、オペレーションセンターを稼働させるために必要なネット環境が整っていることが外せない条件になります。加えて、貧困に苦しむ方(潜在的にオペレーターになり得る方)が多い地域であることも条件となります。現実的に、ステップを踏んで事業を展開していく必要があると思ったので、日本との距離が近い国として、アジアがいいなと。そんな時、ソーシャルマッチと出会い、進出先をカンボジアに決めました。

原畑:提携しているカンボジアの企業やNGOからも、カンボジアの人々が直面している課題として、「学校を卒業していない人、地方で農業しか仕事がない人などの収入が安定せず、貧困状態に陥ったり、タイに出稼ぎに行ったりしている」というお話をよく伺います。

先日ご紹介した職業訓練センターを運営するカンボジアの現地機関の代表もまさに、林さんのプロジェクトは、「カンボジアで今、求められているプロジェクト」だとおっしゃられていましたね。

キビテク様と職業訓練センターを展開するカンボジアの現地機関が、
ソーシャルマッチのマッチングサービスにより出会い、協業の可能性についてディスカッションする様子

社会問題の解決と収益性を両立させるためには長期的視点が必要

原畑:社会問題の解決と収益性を両立させるために重視している点はありますか?

林:事業として成り立たなければ意味がないので、まずは収益性を重視します。利益をしっかりと出した上で、どのような社会問題の解決に取り組めるかを考えていく。社会問題の解決と収益性の両立は長期的な視点で考えていく必要があると思います。たとえばHATSでいうと、まずカンボジアのオペレーターに簡単な状況判断を任せます。オペレーターに現場のノウハウが溜まり、次第にオペレーターの業務内容が複雑化します。それに伴って、賃金水準が上がり、仕事の選択肢がどんどん広がっていくと考えられます。このように長期的に考えれば、利益をしっかりと出しつつ、社会課題の解決にも繋がるのではないでしょうか。

原畑:まさに現場の方々に高度なオペレーションも依頼しトレーニングすることによって、スキルを持った人材の育成にも繋がりますね。続いて、SDGsについて伺いたいのですが、林さんにとってSDGsとは何ですか?

林:2年前から社会問題を勉強し始めて気づいたのが、現代社会の異常さ。その異常さを、組織や仕組みという単位で認識し、欲望や恐怖と向き合い、適正化していくことが必要だと思います。その欲望や恐怖との向き合い方をブレイクダウンして、17の目標に落とし込んだものがSDGsなのではないかと思います。

原畑:なるほど。林さんはすでに事業を通してSDGsに取り組まれていらっしゃいますが、事業に取り入れたくても「どうやって取り入れたら良いか分からない」という声もよく耳にします。林さんはどのようにして事業にSDGsを取り入れましたか?

林:自社の強みを活かしながら社会課題の解決のためにできること、できそうなことを列挙していきました。あとは自分が何を一番大切にするか、軸をしっかりと定めること。周囲に相談したり、議論を重ねたりすることで軸が見えてくるのではないかと思います。

SDGsに取組む現地キーパーソンからオンライン情報収集

ソーシャルマッチでは林社長にもご利用いただいた、オンラインでSDGsに取組む東南アジア現地企業/NGOと商談ができるサービスを展開しています。現地に渡航することなく、現地キーパーソンからの情報収集や、協業へ向けてのディスカッションができると好評です。

サービスの詳細については、下記の資料をダウンロードいただくか、無料相談にて弊社担当スタッフがご紹介させていただきます。

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〈文・編集=鈴木麻由〉